スポーツメンタル

スポーツにおけるスランプとメンタルの強さとの関係

Yusuke Mori
EQSPORTS代表 森裕亮
EQSPORTS代表 森裕亮

競技能力の向上を目指す上で「成長が停滞する時期」それがスランプです。そして、実はスランプになりやすいかどうかとメンタルの強さには強い関係性があることがいくつかの研究により示されています。今回は、そんなスランプとメンタルの関係性について解説していきます。

スランプがアスリートに与える影響とは?

アスリートが陥るスランプは競技成績のみでなく、精神面にも非常に大きなダメージを与えることが多くの研究により分かっています。そして、このスランプは、競技能力の高い低いに関係なく、アスリートであれば誰もが陥るものであることも、競技熟練度とスランプとの関係性を調べた論文により明らかになっています。

競技能力の良し悪しとスランプに陥りやすいか否かは関係ない

スポーツの熟練度や競技のレベルや種類とスランプへの陥りやすさを調べた研究を一つご紹介します。

この研究では、60名の国際レベルアスリート、99名の国内レベルアスリート、198名の県レベルのアスリート、289名の地域クラブ・大学レベルのアスリート、そして31名の初心者レベルのアスリート、計677名のアスリートを対象に、個々人のメンタル面の強さとスランプ経験について調べました。

この研究の対象となったアスリートは、熟練度、性別、年齢、競技歴、取り組んでいるスポーツの種類(チームor個人)もそれぞれに違いました。

そして、この研究の結果、「性別」「年齢」「スポーツ競技歴」は、メンタル面の強さやスランプへの陥りやすさに対して非常に強い影響を与えていた一方で、「競技レベル」や「取り組むスポーツの種類」は、メンタル面の強さとスランプへの陥りやすさにそれほど影響を与えていないことが判かりました。

つまりこれは、どんなスポーツの熟練度でも、取り組む競技に関わらず、誰しもがスランプに陥る可能性があるということです。

スランプのなりやすさや精神力の強さは、競技キャリアの到達点、そして技術力の高さがスランプに陥りづらくさせるための要因ではないという、少し驚きの結果となったといえます。

競技生活に負のスパイラルを引き起こすのがスランプ

近年、日常的に強いプレッシャーの中で生活を送るスポーツ選手のメンタルケアに対する関心は非常に高まってきています。

そんな中で、今回のテーマであるスランプというパフォーマンスの一時的な停滞感の解消と睡眠の質には大きな関係性があるという研究結果が示されています。

その論文では、プロアスリートは、競技生活の中で多くの心理的ストレスにさらされ、それが結果としてメンタルヘルスに重大な影響を及ぼしていることを伝えています。

さらには、試合や練習中においてメンタル面における不調を抱えた際に、それを長期間放置をすればするほど、スランプに陥りやすいことも同研究内にて判明しています。

つまり、アスリートにとってストレスはパフォーマンスの低迷やスランプを引き起こす要因であり、それがさらにストレスを悪化させるという負のスパイラルを生み出すのです。

特に、トップレベルで活動するアスリートほど多くのプレッシャーの中で競技生活を送っていることから、睡眠の質の悪化し、その結果として睡眠時間が短くなるという報告がなされています。

良質な睡眠がスランプ打開の鍵?

この研究では、十分な睡眠によりカラダの生理的なバランスを回復することで、スランプから脱出する、もしくはなりにくくすることが可能であると伝えています。

論文の中では、カラダの生理的なバランスの回復には、最低でも1日約7~9時間以上の睡眠が必要だと伝えています。

これは人間が持つ睡眠と覚醒のサイクルの維持と調節を司る、ドーパミン、エピネフリン、ヒスタミン、セロトニンなどといった特定の神経伝達物質を正常に分泌・機能させるためです。

これら脳内で発生する神経伝達物質の働きにより、私たち人間はレム睡眠とノンレム睡眠という2種類の睡眠を繰り返しています。

朝居眠りであるレム睡眠はカラダの機能や筋肉を休ませ、深い眠りであるノンレム睡眠は脳も休ませるといったことは非常に有名ですが、人間はこの2つの種類の睡眠を、通常1サイクル70~120分の周期で制御しています。

そして、ここで最も重要なのは、日頃カラダを酷使し、多くのストレスにより精神的なダメージを受けているアスリートは、この睡眠サイクルを4サイクル回す必要があるということです。

これが乱れてしまうと、パフォーマンスのスランプ、さらには精神的な不調に陥りやすくなることもわかっています。

競技生活に潜む睡眠を妨げている要因とは?

加えて、競技生活に付随する特定の要因が、良質な睡眠を作り出す概日リズムと睡眠スイッチのメカニズムを混乱させることが分かっています。

例を挙げると、海外遠征時に発生する時差ボケ、アウェー戦により毎週のように変わる睡眠環境、シーズン中に移動が多くなることによる不規則になりがちな生活習慣、競技生活で受けるストレスからくるメンタル面の不調。

さらには、怪我の治療で服用している薬や、怪我による痛みといった、心身の不調もこの睡眠の質に大きな影響を与えています。

しかし、先にもお伝えしたとおり、例えスランプがあっても十分な睡眠を取り続けることで、生理的な要素からストレス耐性を高め、それを改善することができ、結果としてメンタル面のタフネスを維持することも可能となるのです。

まとめ

実際にスランプへと陥ると、そこから脱出するために焦ってしまうことは良くわかります。

しかし、多種多様な競技に取り組む多くのアスリートのスランプの克服をサポートしてきましたが、競技生活からくる心身面の不調というのは、競技者として飛躍する予兆なのだと感じています。

より強いメンタルを獲得し、今まで以上に強靭な心身のタフネスを獲得することで、あなたの競技レベルはもう2・3段階上のステージへと到達するはずです。

もしも、あなたが現在スランプに悩んでいるのであれば、まずは意識的により多くの睡眠時間を確保すること。そして、スランプは経験を積んでいくことで陥りにくくなることを意識し、長いトンネルを抜けた先には、更に競技生活を楽しめる未来が待っていることを期待し今に向き合ってみましょう。

あなたの競技生活を心から応援しています。

参考文献

Mental toughness in sport: Achievement level, gender, age, experience, and sport type differences /スポーツにおけるメンタルタフネス: 達成度、性別、年齢、経験、スポーツタイプの違い

Poorly Managed Stressors Contributing to an Affective Disorder in a High-Performance Athlete: A Case Report /高性能アスリートにおける感情障害の一因となった管理不十分なストレス要因: 症例報告

ABOUT ME
森 裕亮 – YUSUKE MORI
森 裕亮 – YUSUKE MORI
CEO / FOUNDER
学生時代に心理学の魅力に惹かれ、20代前半に一時単身渡米。心理学やコーチングを深く理解することを追い求め、一つの流派にこだわることなく国内外で複数のコーチング理論を学ぶ。その後、“「あらゆる国」の「あらゆるアスリート」に最高のスポーツ教育を提供する。”をミッションに掲げ、『EQ SPORTS』を設立。人生最大の目標は、スポーツと健康のイノベーションで世界をより良く変えていくこと。
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