外発的動機を活用し、高いモチベーションを維持する方法

Yusuke Mori
EQSPORTS代表 森裕亮
EQSPORTS代表 森裕亮

アスリートにとって、モチベーションを最適に保つことは競技成績に大きな影響を及ぼします。そんなモチベーションには「外発的動機」と「内発的動機」が起因となる2種類が存在します。今回の記事では、その2つの内の“外発的動機”とモチベーションの関係をお伝えし、アスリートのパフォーマンス向上に役立つためのヒントをご共有します。

そもそも外発的動機って一体なに?

まず初めに、アスリートのモチベーション形成に大きな影響を与える外発的動機について説明します。

外発的動機とは

モチベーション形成に影響する動機には「外発的動機」と「内発的動機」の2つがあることは先にお伝えしましたが、そのうち外発的動機とは、外部から与えられる報酬や評価、プレッシャーなどの要因によって、自らのモチベーションを維持しようとする動機のことをいいます。

分かりやすい例としては、試合で勝利すること、優勝することで得られる報酬や賞金、さらには競技成績が向上することにより周りの評価が高まるなどが挙げられます。

つまり、外発的動機とは「報酬」や「罰(それを失いたくないという感情)」によって喚起されるものであり、これらの要因がなくなることでアスリートは自らのモチベーションを維持することが困難な状況に陥ります。

脳神経科学において、外発的動機は脳内に局在するドーパミン神経経路が密接に関与しています。

例えば、何か報酬が期待されるようなシチュエーションに遭遇すると、ドーパミンを分泌するドーパミン作動性ニューロンが多く存在する中脳の黒質や腹側被蓋野、前頭皮質、他にも大脳基底核を構成する線条体、海馬、側坐核などからドーパミンが放出され、快楽(やる気/モチベーション)の感情をもたらします。

ドーパミンが働く神経経路には、黒質線条体路・中脳辺縁系路・中脳皮質路という主に3つの神経回路がありますが、報酬に反応し各経路からドーパミンが放出されることで、脳の司令塔としての役割を持ち、記憶、意思決定、注意、実行など、思考や行動の中心となるさまざまな機能を司る、前頭前野(前頭葉背外側部/DLPFC)が活性化されます。

このように、外発的動機には複数の脳領域が関与しており、このことから、外発的動機を上手く活用し、競技生活で感じるストレスを適切に解消していくことで、メンタル面を健康に保ち、好ましい感情の誘発を意識的にコントロールしていくことも可能となるのです。

外発的動機を発生させるには?

アスリートの外発的動機の喚起には、取り組む競技が持つ社会的状況が密接に関係します。 例えば、取り組む競技自体の特性として高額な報酬や賞金が得られやすいことや、自分自身の努力がスポンサーの獲得や年俸の上昇に直結すること、世間から注目度が高い競技である場合、外発的動機は高まります。

このように、高いモチベーションを保つ上で外発的動機が大きな影響を持つことは確かです。 しかし、多くのケースにおいて外発的動機は一過性のものとなりやすいため、長期的にモチベーションを維持するためには向いていないないとも言われます。 そのため、今回紹介している外発的動機と合わせて、冒頭でもお伝えした「内発的動機」とのバランスを適切にコントロールしていくことが大切です。

※内発的動機:自己成長や達成感、興味や好奇心など、自分自身の内側から生まれる動機。

モチベーションと外発的動機の関係性

ここでは外発的動機がどのようにモチベーションに対し影響を与えているのかについて、ウェスタンシドニー大学にて行われた研究 【Temporal ordering of motivational quality and athlete burnout in elite sport(2011)/ページ下部に参考文献記載】を用いながら解説します。

モチベーションや燃え尽き症候群と外発的動機の関係性

この研究ではニュージーランドに住む一流アスリートを対象に、1985年にアメリカの心理学者であるエドワード・デシ(Edward L. Deci)とリチャード・ライアン(Richard M. Ryan)により提唱された、自らが目標を設定し、自発的に目標の実現さらには自己実現に向け行動を起こすための『自己決定理論』を用い、モチベーションと燃え尽き症候群(バーンアウト)の関係を調査しました。

そして、この研究の結果から、自己決定意識の低さ(モチベーションの低さ)はアスリートの燃え尽き症候群を誘発させやすいこと、さらには外発的動機によるモチベーション形成も燃え尽き症候群を引き起こす大きな要因であることが分かりました。

外発的動機がもたらすモチベーションへのネガティブな影響

この研究結果からも外発的動機は、長い視点に立ってみるとモチベーションの低下に繋がることが分かります。 報酬や他社評価の獲得といった外部からの動機が高まる一方で、内面的から湧き出る向上心や意欲が減退していくと、その行動自体がやがて苦痛となり始めます。

これを心理学では、過剰正当化効果(アンダーマイニング効果)と呼びます。

先ほど紹介した自己決定理論によれば、人は自らの意思により人生の方針の意思決定を行うことで、強い自己肯定感と満足感を得ることができるとされています。 しかし一方で、報酬やプレッシャーといった外的要因によって行われた動機付けは、当人の意思決定力を低下させ、結果として自己肯定感と満足感を得づらい心理的状況を生み出す要因となり得ます。

モチベーションと外発的動機を好ましく結びつけるには

最後に、好ましい形で外発的動機をモチベーションへと結びつける方法をお伝えします。

外発的動機をモチベーションに結びつける方法

外発的動機を継続的なモチベーションへと変更するには、以下のような方法が有効です。

はじめに、自分の能力を伸ばしたり経験を伸ばすことを可能とする、自分自身が強く関心を抱く興味や課題を探してみましょう。

次に、そこから目標設定、さらにはその目標を達成するための計画、そしてその計画の進捗状況を定期的に確認することを通じて、自分自身の成長を実感できる構造を作り上げます。

ここでポイントになるのが、自分自身が納得し、満足できるような成果を追求することを念頭に置くことです。決して他人の評価や承認を求めることを念頭に置かないことに注意しましょう。

このような内発的動機の起因に直結する作業は、前頭前野や頭頂葉、側頭葉などの高次脳領域を活性化させるだけでなく、創造性や洞察力の喚起させることで、言語理解や視覚的に捉えたものを記憶することに関与する側頭葉や空間認識能力にも関わる後頭葉の領域が活性化されるなど、競技能力を支える脳内ネットワークの強化に対して非常に有効なアプローチであることがわかっています。

まとめ

高いモチベーション長期的に維持するためには、内発的動機を優先的に高め自分で意思決定を行なっている実感をどれだけ意識的に形成でているかが重要です。 そのためには、成長感を実感できる自己実現目標を設定し、自らの成長を認識できるよう定期的なフィードバック機会を得るといった工夫を行うことがいいでしょう。

今回ご紹介した外発的動機は、一時的なモチベーション喚起に対しては非常に有効です。しかし、長期的なモチベーションの維持と、燃え尽き症候群などの精神疾患リスクの回避といった観点から見た際には、外発的要因によるモチベーション要素を内発的なモチベーションへと変換するためメンタルスキルの獲得は、多くのアスリートにとって非常に重要なアプローチになるといえるでしょう。

是非、本記事の内容を日々の競技生活に活かしてみてはいかがでしょうか。

参考文献

エリートスポーツにおける動機づけの質とアスリートの燃え尽き症候群の時間的順序 /Temporal ordering of motivational quality and athlete burnout in elite sport

ABOUT ME
森 裕亮 – YUSUKE MORI
森 裕亮 – YUSUKE MORI
CEO / FOUNDER
学生時代に心理学の魅力に惹かれ、20代前半に一時単身渡米。心理学やコーチングを深く理解することを追い求め、一つの流派にこだわることなく国内外で複数のコーチング理論を学ぶ。その後、“「あらゆる国」の「あらゆるアスリート」に最高のスポーツ教育を提供する。”をミッションに掲げ、『EQ SPORTS』を設立。人生最大の目標は、スポーツと健康のイノベーションで世界をより良く変えていくこと。
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