優れた成果の源「コンピテンシー」をアスリートが活用する方法

Yusuke Mori
EQSPORTS代表 森裕亮
EQSPORTS代表 森裕亮

高い成果を出す人物に共通して見られる“行動特性”を意味する「コンピテンシー」を、アスリートが意識することでどのような効果が見込まれるのか。その内容について競技力の向上を目指したいと考える方に向けて今回はシェアします。

ハイパフォーマーが必ず持っているコンピテンシー

1950年代に心理学用語として生まれたコンピテンシー(compitency)は、ハイパフォーマーに共通して見られる行動特性のことを指し、1970年前半にアメリカの心理学者であり欲求理論の提唱者としても知られるハーバード大学のデイビッド・マクレランドによる研究で一般用語としても使用されはじめました。

この研究では、高い成果上げる人間が共通して持つ能力についてを調査しましたが、この調査で明らかになったのは意外にも「学歴」や「知能」は実績に対して大きな影響を与えないということでした。

しかし一方で、高い業績を上げている人間には、複数の共通した「行動特性(傾向)」が発見され、この研究からコンピテンシーという言葉は、ハイパフォーマー(高い成果をあげる人)の「行動特性」として示されるようになり、近年では人事評価や採用面接にコンピテンシーを活用する企業が増えてきています。

例えば、スポーツシーンにおいて成長速度が早い人の特徴の一つに、「良いところは盗む」という要素が見られますが、これもコンピテンシーから来る概念となり、このコンピテンシーについてを理解し、日頃の競技生活へと意識的に取り入れていくことで確実にパフォーマンス向上は実現していくかと思われます。

なお、この研究で分析され導き出されたコンピテンシーには、

  • その場の感情に流されず落ち着いて判断できる「冷静さ」
  • 状況において軌道修正できる「行動思考」
  • 初対面で好印象を与える「第一印象度」
  • 問題の本質を見極め解決を図る「分析思考」

などといった項目が挙げられ、具体的な行動それ事態ではなく、あくまで抽象度の高い「行動特性」としての項目に終始していることが特徴です。

一般的に見られるコンピテンシーの活用法

コンピテンシーはビジネスシーンにおいて「人事戦略の最重要基盤」とも称され、能力強化アプローチの要として機能する要素であるとして周知されています。

コンピテンシーがその効果を発揮するシーンは大きく分けて3つあり、それが「評価」「採用」「教育」です。

評価

まず「評価」シーンにおいてですが、コンピテンシーによる評価以外にも人事評価において用いられる手法には、1954年にP.F.ドラッガーが提唱した組織マネジメント法としても有名であり、個別またはグルーブごとに目標を設定し、それに対する達成度合いで評価を決める制度として知られる「目標管理制度(MBO)」。更には、指導者や選手、チームメイトといった異なった立場のメンバーから評価をしてもらう「360度評価」などが挙げられます。

このように様々な評価方法がある中でも「評価のブレ」を可能な限り少なくさせる目的で活用されることが多いのが「コンピテンシー評価」なのです。

コンピテンシー評価を行う際には、事前に各種部署に所属するハイパーフォーマーへとヒアリングを行い、共通する行動特性を定義・項目化し、それを定期的な人事評価へと活用します。

評価項目の事例としては、「目標とする思考法を習得することができていたか」「ハイパフォーマーの行動特性へとどのレベルまで近づけたか』といった要素が挙げられます。

採用

次に「採用」シーンについてです。面接などの採用基準としてもコンピテンシーは活用されます。スポーツチームという視点から見れば、新しい選手の加入時に考えるのは、組織のプラスになるような選手を獲得したいということです。

そして、ここで重要となるのはチームとして「加入基準を明確にする」ことが挙げられます。つまりは、チーム加入者の「本質を確認する」ために、加入基準の指数の一つとしてコンピテンシーが活用されるのです。

既にチーム内で活躍している、中心選手となっているハイパフォーマーのコンピテンシーをもとに加入基準を設定することで所属後にチームの雰囲気に馴染みやすく、活躍できる人材を面接時に見極めやすくなります。

コンピテンシーを活用した面接時の質問の具体的事例としては、

  • ここ1年以内で「最も成果をあげることができたエピソード」とは何か?
  • 「どのような成果」をあげることができたのか?
  • 成果を上げるために「なぜそうしよう」と思ったのか?
  • 成果につなげようと「どのような工夫」をしたのか?

などといった、掘り下げ式の質問が挙げられます。

教育

最後となるのが「教育」シーンです。コンピテンシーは、能力開発やキャリア開発にも広く活用されています。コンピテンシー研修は定期的に行うことが効果的であると言われ、研修テーマには「どのような思考でどのような行動をすれば高い効果に繋がるのか」といった、ハイパフォーマーの行動特性についてを研修参加者に思考させるなどといったアプローチを取ることが多くあります。

そして、その上で「どのような思考を身につけたいのか」「どのような行動ができるようになりたいのか」という目標を個々人に設定してもらうことで、自発的な行動変容の促進を誘発させ、ハイパフォーマンスの獲得を目指します。

コンピテンシーの早期獲得を目指すためには、まず自らの目標達成に向け際中と考えられるコンピテンシーの要素を洗い出す必要があり、より効果が高いとされる方法は、コンサルタントやコーチなどが1年間べったりと密着する「厳密法」を用い、短期的にフィードバックを繰り返していくこととされ、世界的なハイパフォーマーたちがこの厳密法を採用し、自らの能力開発に努めていることも非常に有名です。

タスク処理、イマジネーション、リーダーシップ、コミュニケーションなど、自らが開発すべきと感じる能力についてを選び出し、その能力をハイパフォーマンス化させるためのコンピテンシーを定め、その開発に努めていくのです。

コンピテンシーを高めアスリートとしての能力を開発する

ここまでお伝えしてきたように、その人が持つ学歴や知識それ自体が、必ずしも高い成績を上げるために必要ではなく、実績を上げるためにより重要となる能力というのは「良好な人間関係構築力」や「グリット力(やり切る力)」、更には「高い感受性」「ユーモア」など。こういった能力を兼ね揃えているかどうかの方が重要なのです。

主にビジネスシーンで使用されてきたコンピテンシーの概念は、2000年代に入ってからスポーツ分野にも使用されるようになっており、トップアスリートたちにも共通するコンピテンシー(行動特性)も明らかになってきています。

ハイパフォーマーの行動特性は、アスリートにとっても非常に興味深いものであり、メンタルがブレることなく常に落ち着いてプレーに集中することができれば、パフォーマンスの向上も期待できます。

まとめ

今回は、コンピテンシーについてお話しました。

自らの能力開発のプロセスの中でコンピテンシーを意識することで、日々の行動の質は高まり、安定したメンタルでパフォーマンスを向上させることが可能ですので、ぜひ一度試してはいかがでしょうか。

その効果に手応えがあれば、より確固たるものにするために厳密法で本格的に取り入れていくこともおすすめです。

ABOUT ME
森 裕亮 – YUSUKE MORI
森 裕亮 – YUSUKE MORI
CEO / FOUNDER
学生時代に心理学の魅力に惹かれ、20代前半に一時単身渡米。心理学やコーチングを深く理解することを追い求め、一つの流派にこだわることなく国内外で複数のコーチング理論を学ぶ。その後、“「あらゆる国」の「あらゆるアスリート」に最高のスポーツ教育を提供する。”をミッションに掲げ、『EQ SPORTS』を設立。人生最大の目標は、スポーツと健康のイノベーションで世界をより良く変えていくこと。
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